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映画おじさんの絶品クリームシチュー

謎テンションで新作映画の感想を書きます。

ビッグ・アイズ 感想

ティム・バートン監督の、実話に基づいた伝記映画。良かったです。

 

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売れないバツイチ子持ち画家の妻マーガレットが描く異様に目の大きな子供の絵画「ビッグアイズ」を、クリストフ・ヴァルツ演じる夫のウォルター・キーンがあたかも自分が描いたかのように売り出すことで富と名声を得ていき、かたや本当の描き手であるマーガレットは監禁状態で部屋にこもってひたすら絵を書き続ける。何もせずに栄光を勝ち取っていく夫ウォルターに耐えかねたマーガレットが行動に出て…的な映画なんだけど、とてもわかりやすくて飽きない映画でした。

この映画の前半部分を一言で言い表すなら、胸くそクリストフ・ヴァルツおじさん鑑賞映画なんですね~~。口のうまいウォルター・キーンが、内気で口下手で世間知らずなマーガレットをいとも容易く手中に収め、妻の作品が売れるやいなや「この絵を作るにあたって苦労した部分は…」だの「この大きな目の意図は…」だのと、ペラペラペラペラと厚顔無恥に自分の絵であるかのように語るわけ。自己顕示欲や承認欲求だけはぶくぶくと一丁前に育って、ただしそれを発散させる実力はなんら持ち合わせていないカス野郎は手軽にそれらの欲求を満たすために、他者の作品を自分の手柄のように公表するのだから救えない。これはTwitterでおもしろいツイートをパクってRTを稼ぐ奴らであったりYoutubeで無断転載して再生数が増すのを自分のことのように喜ぶ奴らであったりと、現実世界にもウジャウジャいるわけなんだけど。こいつらの共通点は、自分で魂を注いで何かを作った経験がないってことだと思うんだよなあ。魂をこめて何かを作る経験があったらこんな行動取れないでしょ。敬意もプライドも無い。面の皮が厚すぎる。

いろんな評を聞いていると、夫ウォルターの行動も昔は画家を目指していたものの挫折したコンプレックスからくる行動だったからそこまで責められるものではないという意見だったり、結局ウォルターが本当は心のどこかでは絵を愛していたのかもしれないという意見だったり、その辺をティム・バートンはあえて不明瞭にしているという批評だったりを目にするんだけど、お前ら全員何を寝ぼけたことを言ってるんだと俺は思う。人の作品を自分が作ったかのように語って名誉を手に入れて平気でいられるようなクソ精神がある時点で、そいつは一度として創作に向き合うことをしたことがない人間だろう。情緒酌量の余地はない。「努力はしたくないけど、ちやほやされたい」の一言に尽きる。浅い野郎である。物語の後半でウォルター・キーンのある秘密をマーガレットが知ってしまうシーンがあるんだけど、その秘密も俺からすれば「やっぱりな」という他ないし、その秘密こそが彼を象徴していると思う。俺はこいつを許しません。(マジギレ)

自分が学生時代ずっと創作活動にあけくれて作り手側にいたせいで、必要以上にマーガレットへ感情移入してしまっている節は否めないが、ここまで胸糞悪い気分にさせられちゃってる時点で、この映画あっぱれとも言える。この胸くそ悪さはクリストフ・ヴァルツの名演が活かされてる証拠である。ウォルター・キーンというキャラクター造形は本当に不愉快で、なんとも言えない「浅さ」の表現も絶妙。へらへらした表情とか、軽口を叩くところとか。だからこそ。だからこそ、後半以降の、秘密が世に暴かれていく展開が活かされていくのである。 まず、内気で口下手でずっと夫ウォルターに抑圧され続けたマーガレットがついに、真実を世間に公表しようと決意するシーン。正直ここがめちゃくちゃたぎるんです。たまらん。舞台が男尊女卑まっただ中のアメリカであったり、実際自分で絵を出展しても口下手を露呈しただけに終わったり、今まで散々踏ん切りをつけようとする度に様々な要因によって挫折してきたマーガレットがそれでも尚耐えかねて一念発起するのだから、気持よくないわけがないんですな~~~~。まだマーガレットが真実の公表を決意したというだけで実際にウォルターに制裁が下されたわけでもないのに、もうスッキリする!! ここで面白いのが、マーガレットが真実を告げようと決意した理由はエホバの証人という宗教にハマって、その教えに従おうとしたからという結局なんともマーガレットらしい理由なんだけど、それに対して娘が呆れながら「エホバの証人って訴訟はOKなの?」って聞くシーン。なんでそんなに娘さんクールなの。めっちゃニヤニヤしてしまう。

ということで本作一番のカタルシスポイントはマーガレットが夫ウォルターの抑圧から解放されるシーンであり、実際に夫ウォルターが制裁を加えられるシーンではないのです。これは惜しいことだと思います。実はこの作品、ウォルターの哀れな末路は最後に字幕解説でサラッと紹介されるだけで、勧善懲悪のシーンは非常にあっさりとしたものなんですね。個人的にはもっともっとウォルターが失意のどん底に突き落とされるところが見たかった。話によれば脚本の時点では、敗訴が確定したウォルターの、涙でいっぱいになった目がズームで映しだされ、その姿がビッグアイズのイラストになぞらえられるという最高の演出が用意されてたはずだったのにも関わらず、ティム・バートン監督はそのシーンをばっさりカットしたそうな。この手放しに悪者を成敗するエンドにしないバランスこそがティム・バートンの魅力だと宇多丸師匠は語っていたけど、いやいやここはそれくらいしてもらわなきゃこっちの溜飲も下がらないだろうというのが僕の意見であります。とはいえ、実際に裁判が開かれて厳粛な裁判長の前で誰の目から見ても見苦しい滑稽な言い逃れをするウォルターの姿は、ざまあみろの心境を通り越してむしろ同情してしまうほどの域であり、あそこまで哀れな姿を見せつけられたらこっちも「いや…もういいよ…ウォルターおつかれ…」という気分になってしまうし、そのお陰で消化不良というほどまでにはいかないのだけれども。この裁判シーンのウォルターの哀れな言い逃れっぷりは本当に一見の価値ありです。小学生か!!!みたいな言い訳を並べながら裁判長に正論で責められる様は映画館でも笑いが起きていたし。いやーーしかしあそこまで言い逃れするならやっぱり、最後の最後は逆転裁判の証人みたいに泡吹いてぶっ倒れて気絶するくらいのオーバーアクトはしてほしかったな~~~~。

ていうかこれ伝記映画なんだよな。実話を元にしてるんだもんな。はあ~すごいもんだな~~。そう。すごいもんだな~~って思えるだけでも面白いと思います!おわり。(終着点を見失った適当な締め。)