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映画おじさんの絶品クリームシチュー

謎テンションで新作映画の感想を書きます。

恋人たち


すごい映画でした。

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三人の恋を描いた群像劇なんだけど、恋とは言っても表題からは考えられないほど陰鬱な内容、叶わぬ恋なんですね。しかも、叶わぬ恋と一口に言っても「意中の相手に実は既に恋人がいて…」とかそんな次元の叶わなさとは到底違くて、もっと身を切られるような理不尽に彼らは見舞われるんですね。(いや意中の相手に恋人がいたら十分身を切られる思いやけどね。) 特に主人公の一人、篠塚の境遇なんかは共感しようにもあまりに重くてやすやすと「その気持ちわかる」とさえ言えないんです。無責任に同情出来ない。
そしてこの映画の恐ろしさは、彼らの境遇なんて僕らは到底経験したことがないというのに、「あるあるあるある……」と思わされる部分にある思いました。この日本という国で、社会で、世間で、現実として普遍的に起こり得るという説得力が暴力に変わって僕らを打ちのめすんですよ。「うわーーーこういう態度の奴いるいる!」「こいつなんでこんな態度になっちゃうの!!」役者の演技力や監督の手腕によって創り出されたおぞましいほどの現実感が、目の前で描かれる絶望的な状況に対する「これは作り話やから…」という逃げ道さえ排除してるようで半ば強制的に没入させられる。
じゃあいわゆる胸糞映画なのかというと、ちゃんと前向きに作られてて、周囲の救い方、手の差し伸べ方が「私が彼を絶望の淵から救ってみせる」的な大仰なものじゃなくて、「あの人ちょっと元気ないけど、どうしたのかな?」という具合に声をかけてきて他愛のない雑談を持ちかけたりする。だけどそのシーンが凄く凄く温かくてとても印象に残るシーンになっていたりして、良いなあと思うのです。会社の先輩(黒田)が弁当片手に部屋へ様子を見にきてくれるシーンとか、最高すぎてな…あああ…
あと、腐りきった篠塚が街でうなだれてるシーンで舌打ち不可避のバカップルが出てくるんだけど、あの絶妙的な「殴りたさ」は必見。そしてそんな不快感の塊みたいなバカップルを見て「あいつら二人とも愛し合ってるんだなあ、幸せなんだなあ、素敵だなあ」って泣きじゃくる篠塚がもうもうもう…あああ……この世の全てを呪いたくなる境遇であのバカップルから尊さを見いだせるお前こそ本当に尊いよ……ああ、頼むから幸せに生きてくれ………。こんな感じで1シーン毎に「あそこの○○が…」「あの××の態度ときたら…」と細かに語りたくなる映画でした。
ただしここまで褒めちぎってたのは群像劇の中でも中心人物となる篠塚のエピソードにおいてで、逆に肩身の狭い主婦役(?)として置かれてる瞳子のエピソードにはいまいちピンとこなくてノイズに思える箇所さえあったんやなあ……。作業のようにしか見えない夫婦の営みシーンの絶望感は凄かったけどな…彼女に関してはちょっと何考えてるかよくわからない部分があったな……はい。僕の想像力不足と人生経験不足ですかね。
蛇足ですが、今作は珍しく川崎の三大シネコンで上映していない映画だったので、キネカ大森というシネリーブル系列のお店で初めて観賞したんですけど、レトロながらもファンサービス旺盛で凄く素敵な劇場でした。壁一面に「恋人たち」の記事がスクラップされてて観賞後にそれを眺めるのも楽しかったです。
年内の更新は次回が最後やと思います。次の映画は、I LOVE スヌーピー