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映画おじさんの絶品クリームシチュー

謎テンションで新作映画の感想を書きます。

海よりもまだ深く 感想

ご無沙汰しております。1ヶ月ぶりの更新になってしまいました。

なにかと多忙でして、文量を減らすことで縮小運転していこうかと思います。

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f:id:ma2baga2:20160507144218p:plain「実在感」が我々にもたらす不思議な力

是枝監督の魅力として言わずもがな挙げられるのが、実在感であります。実在感とは、鑑賞中、彼らがそこに生きて、実際に生活しているとしか思えなくなるということです。 そして実在感は没入感へと繋がり、我々は「自分が映画を観ている」というメタな感覚を次第に失い、より世界に入り込めるわけです。しかし、本作の実在感はそれだけには留まりませんでした。監督の確かな手腕と、役者陣による最高峰の名演は、更なるシナジー効果を生み出しました。チーズケーキ。(あ、今のはシナジーとかいう難しいカタカナを使ったので簡単なカタカナで中和したんですね。。。)

 

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キャスト陣全員が名演ばかり。特に樹木希林。もう人間国宝でしょ…。

この実在感……もっとザックリいえば、登場人物を、我々と同じ世界の住人として身近に感じられるということ。彼らが我々に優しく寄り添ってくれるということ。それらにより、なりたいものになれなかった良多(阿部寛)をとても他人のようには思えなくなるし、「彼らも懸命に生きているんだ。僕も頑張ろう。」という気持ちにもなってくるわけです。

作中にストーリーの起伏はそれほどありません。映画評論ブロガー伊藤総さんの言葉を借りるなら"低空飛行を続ける"映画です。大仰な演出も、名ゼリフを印象付けるためのおあつらえ向きなシチュエーションも用意されていません。にも関わらず、平凡な日常描写の中で彼らがポロッと零すセリフが、スッ……と胸に染み渡ること染み渡ること。「そうだよなーーーーー…………」と、僕らは反芻してしまうのです。

f:id:ma2baga2:20160507144218p:plainエキストラなどこの世には一人もいないんだ

そして、本作は「我々一人ひとりの歩む人生そのものが、それだけでドラマたり得るのだ」というメッセージとしても作用し始めます。まあ、この言い方はちょっと大げさかもしれないですが。作中の登場人物が本当に全員「生きている」から、自分の人生を重ねざるを得なくなってくるし「俺も生まれてから遠いとこまできたんだな~~」とか思ったり、思わなかったり。いや、僕自身は20代の若輩者ですが……。

 また、映画自体は2時間ちょっとなのですが、画面に映る姿だけではなく「彼らが今に至るまで、ずっと人生を歩んできた」ということを容易に想像できるんですよね。これがすごい。あくまで映画は彼らの長い人生のごく一部を切り取ったにすぎず、映画が始まる前から生きていて、映画が終わってからも生きてゆくのです。そう、感じるのです。これは態度、仕草、習慣などといった細かな部分にも密なる情報が添えられているからに他ならないと思います。

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例えば、元妻の響子(真木よう子)の良多に対する態度。

僕ら観客から見た良多は、確かにギャンブル癖やガサツな性格など褒められたものじゃないところもあるけれど、基本的には憎めないというか、好意的な印象を受けるかと思います。しかし響子だけは、良多に対して本気の拒絶を感じる瞬間があり、ちょっとゾッとするくらい冷めた表情を見せることがあります。

これは恐らく彼女がまだ離婚してなかった頃に、何度も良多がしっかりすることに期待を寄せ、その度に彼の愚かな行動に絶望し、そんなことを繰り返してるうちにいよいよ本当に「どうしようもない」という結論に至って離婚へ踏み切ったんだろうな……。とか、良多が「根は良い奴」であることなんて誰よりも知っているんだろうな……。とか。いろいろ想像が膨らむわけです。

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見てください、この冷めた顔……。

全てはセリフ等で説明があるわけでなく、でも、それが、わかる。想像できる。

語られていない部分にも沢山のエピソードを想像する余地がある。本作の深みはそこにあると思います。映画の始まりが彼らの初まりではないということ。生まれて今に至るまで、全てがドラマ足り得るということ。そして、それは自分の人生もそうだということ。海よりも、まだ深く。

もう一度観たいなあ、と思います。もう近くでやってないけど。(観てから感想書くまでに1ヶ月半以上かかってしまった。)

 

おわり